材料業界には「繊維素材」と呼ばれる、高分子材料の補強に使用される素材が数多く存在します。
中でも最近よく使われるのが「カーボンナノファイバー(炭素繊維)」や「セルロースナノファイバー」でしょうか。
炭素繊維は古くから研究が成されており、現在では様々なプラスチックの強度や耐熱性の向上など、工業界では欠かせない素材になっています。
しかし何年か前から「カーボンフリー」「脱炭素社会」などの言葉が流行り始め、カーボン系ではない天然由来の素材に注目が集まるようになりました。
そのうちの一つが木材・紙類を加工して得られる「セルロースナノファイバー(CNF)」という素材です。
CNFは現状で「世界最先端のバイオマス素材」と言われています。
国内でも日本製紙をはじめとする製紙会社を中心に研究が進められ、まだ少ないながらも世界全体で約60トン弱(2020年)と商業生産も進んでいます。
そんな中、先日論文誌を見ていたら面白い素材が紹介されていました。
それが「キチンナノファイバー」です。
キチンというのはエビやカニ、あるいは昆虫類の硬い外郭を構成しているポリアセチルグルコサミンになります。
これをCNFと同様に様々な処理を加えてナノ線維化したものが「キチンナノファイバー」になります。

このキチンナノファイバーは株式会社マリナノファイバーという鳥取大学発のベンチャー企業によってすでに様々な商業利用に使われています。
株式会社マリナノファイバー(公式HP)
https://www.marine-nf.com/
工業用途で考えると、キチンナノファイバーの特長は以下のようになるようです。
- 軽量
- 高い補強性
- 低熱膨張性
- 透明性
構造から見るとわかりますが、基本的な性質はCNFとほぼ同じです。
親水性が高いナノファイバーなので基本的には水系溶媒の分散液になっています。
アクリル樹脂に繊維含有率が60%以上でも透明性を保てるというのは光学関連分野でも使い道がありそうです。
この素材、個人的には扱ってみたい欲求はあるのですが、残念ながらエラストマー分野や粘着剤・接着剤関連の配合分野で使うのは難しいでしょうね…
やはり有機溶剤系がメインになるところでは、水系の分散液というのはかなり扱いにくいです。
興味がある方は上記のマリンナノファイバーのHPからサンプルも貰えるようです。
また、生体由来の素材ということで食料分野や医療分野、美容分野でも使用可能とのこと。
カニやエビ由来だと甲殻類アレルギーに引っかかるのでは? と思うかもしれませんが、アレルギーの由来になる物質はカニなどの甲羅をキチンナノファイバーにする過程の処理で取り除かれるので問題ないとのことです。


少々お値段が張る気がしないでもないですが、保湿クリームとかはちょっと使ってみたい。
そしてまさかスカルプケアの頭皮ローションまであるとは!
CNFに比べても工業分野に対してはまだ普及させるまでには大変かもしれませんが、こういった思わぬ方向から調達できる素材を見せてくるのはなかなか面白いと思いました。