第7回: 加硫曲線とは?

加硫曲線とは?

加硫曲線というのは文字通り、そのゴム材料が加熱架橋される際の挙動を示したグラフになります。

ゴムの架橋というのは一般的に150~200℃くらいで行われることが多いのですが、どのようなゴム製品を作るかでゴム材料(未加硫ゴム)の加工成型の仕方(インジェクション成型、トランスファー成型、押出成形、プレス成型、釜加硫成型etc…)が変わってきます。

そうなると、ゴム材料にもそれぞれの成型方法に合わせて

  • 最初の段階では架橋しないけど、これくらい経ったタイミングで一気に架橋するようにしてほしい
  • 全体的に緩やかに架橋するようにしてほしい

などの架橋するタイミングの要求が出てきます。
つまり、ただ熱をかけて架橋すればいい…というわけではありません。

架橋のタイミングや速さの調整方法は?

ゴム配合中の加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤といった有機薬品の種類と量の組み合わせで調整します。
加硫剤や加硫促進助剤は大内新興化学工業や川口化学工業をはじめ、化学メーカーで販売されています。

国内主要促進剤販売メーカー

架橋というのは二重結合部分で主鎖同士が結合してできます。
例えばNBRやNR(天然ゴム)、IR、BRといった主鎖構造に二重結合を含むジエン系ゴムを使った配合では、加硫促進剤にCZ、TT、架橋剤に硫黄を加えてやれば160℃の温度で10~15分程度で加硫することができます。

ところが、EPDMのように主鎖に二重結合をもたず、ポリマー中の10%未満程度しか架橋のためのジエン成分が含有されていないポリマーでは、上記の組み合わせで架橋しようとしても非常に時間がかかってしまうため、さらに加硫促進剤の種類や量を増やすなどしないといけません。

架橋の挙動はどうやって見るの?

「キュラストメーター」と呼ばれる機器で見ます。
これは5~6gぐらいの未加硫ゴムを任意に設定した温度の熱板で挟み込み、1~3°の振幅でトルクをかけて、任意に設定した時間の中でそのトルクの応力の大きさの変化を見て架橋してるかの有無を見る機器です。

この機器で見るのは全体的な加硫曲線もそうですが、ML、MH、T10、T90といったパラメーターも見ます。

  • ML: その測定した時間の中で一番低いトルク値
  • MH:     〃     一番高いトルク値
  • T10:      〃     10%架橋するまでにかかった時間
  • T90:     〃     90%架橋するまでにかかった時間

例えば私は、新規で作製したゴム材料が何分で架橋するかは、任意の温度でキュラストを測定して出たT90の値を1.5倍した時間を架橋条件として設定することが多かったです。
また、キュラストのT10が1.5(分)より小さい場合は工場の現場で生産する際、ヤケの危険性があるので加硫調整が必要になる、といった情報も得られます。
さらに、MH-MLは架橋密度の指標にもなります。
このように加硫曲線というのは色々な情報が得られるので、開発の際は測定必須になっています。

実際の開発現場では、

( ・ω・):「うーん、今回の練ったこの配合はあの配合の加硫調整したやつだし、まぁ160℃×20分もあれば加硫するっしょ。一応確認しとこっ」
→キュラスト測定
(´・ω・):「あれ、20分経ったけどトルク全然上がっておらん…なんでや…?」

( ゚д゚)ハッ!

( ゚д゚):「アイエエエエエエ!? あの促進剤入れるの忘れてたー!?」

といったようなポカミスに気付くきっかけにもなります。
もしこの確認をせずに160℃×20分でプレス加硫して試験用のゴムシートの作成をしていたら、おそらく架橋はせず、未加硫で熱だけがかかった材料で金型がベトベトになり、泣きながら掃除することになっていたでしょう。

そうでなくても、ゴムという複合材料は何が起こるかわからないので事前確認はちゃんとしておいて損はありません。

液体窒素(えきちー) のアバター

作者: 液体窒素(えきちー)

某化学系企業に勤める高分子系の材料開発屋。 大学での専攻は有機合成化学。卒業後、2012年から約7年、ゴム材料の品証、開発、製造などに従事。その後、粘着剤に関わり、現在は接着剤の開発を行っています。 副業はアズールレーンの指揮官。 趣味は文房具、宝石、シルバーアクセサリーなど

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