ここ数年、高分子材料に対する耐熱性の要求というのは非常に高くなっています。
例えばゴム。
EPDM材だと一般的には130℃程度の耐熱性が限界と言われています。
しかし最近では150℃、170℃といった本来ならACM(アクリルゴム)やECO(エピクロロヒドリンゴム)のようなゴムが適正になる領域での使用を想定する場合も見られるようになりました。
こういった高耐熱性の背景には、自動車のエンジンルームの小型化による内部温度の上昇や、5G, 6Gなどの高速通信に伴うバッテリーや部品の発熱量の増大など、機器類の高機能化に起因するものが多くあります。
さてそんな中、私も材料の設計開発者としてメーカーとミーティングをして材料に求められる性能をヒアリングすることが多いのですが、以下のようなやりとりが発生することがあります。
私 :「ではまずどういった性能が必要か教えてもらえますか?」
ユーザー:「はい、今回特にポイントにしているのは『耐熱性』ですね」
私 :「なるほど。確かにお話を聞いていると、この材料を使う部分には必要ですね」
ユーザー:「ええ、こちらとしては150℃の耐熱性が欲しいです」
私 :「ほほぅ…具体的な規格の数値としてはどのくらいですか?」
ユーザー:「150℃です」
私 :「いや、あの、そうではなく…(´・ω・`)」
ユーザー:「…?(´・ω・`)」
ここで私が聞きたかったのは「150℃の耐熱性をどういった試験で見ようとしているのか? その規格値は?」という点でした。
耐熱性の指標(ゴムの場合)
加硫ゴムで耐熱性といった場合は主に以下の2点を指標にすることが多いです。
- 熱老化試験
- 圧縮永久ひずみ試験
<熱老化試験>
・熱風槽(ギヤーオーブン)に「〇〇℃×△△時間」の条件で加硫ゴムのダンベル状試験片を入れる。
・取り出した試験片を引張試験にかけて、熱老化をかけていない試験片と比較して、引張強度や破断伸びがどの程度変化したかを見る。
<圧縮永久ひずみ試験>
・熱風槽に「〇〇℃×△△時間」の条件で25%圧縮した加硫ゴムの円柱状試験片を入れる。
・取り出した試験片を圧縮から解放して、30分後に試験片が圧縮をかける前の高さに対して、どの程度まで元に戻るかを見る。
特に「熱老化試験」が基本になります。例えば、
- 熱老化後の変化率(Ac)がTB, EBともに10%以下
- 熱老化後の残存率(Ar)でTBが90%以上
というような感じです。
耐熱性の指標(樹脂の場合)
樹脂の場合は以下の項目が指標にされます。
- ガラス転移温度(Tg)
ガラス転移温度というのは大雑把に言えば「樹脂の軟化温度」になります。
樹脂材料というのは基本的に常温(23~25℃)で硬く、この状態での性能を望むことが多いのですが、ガラス転移温度以上になると軟化が始まり望む性能が出なくなってしまいます。
このため、例えば樹脂材料で「150℃の耐熱性」と言われると「Tgが150℃以上になる材料」というような意味で捉えることになります。
また、ガラス転移温度に関係しますが「Tg以上の温度域で線熱膨張係数が〇〇ppm以下」というような場合もあります。
これは寸法・形状の安定性に関わるような項目です。
金属なども含め多くの材料は熱を加えると膨張(=寸法が変化)しますが、基本的には熱がかかっても膨張しない、あるいは膨張がほとんどない、というのが望まれる場合が多いです。
このため、線熱膨張係数を耐熱性の指標にする場合もあります。
ちなみにゴム材料の場合、ガラス転移温度はマイナス温度の領域(-60~-30℃付近)にあるため「耐熱性」ではなく「耐寒性」の指標とされます。
(例えばTg=-50℃のゴム材料の場合、-60℃になるとガラス状になってゴムの特性がなくなるので使用には適さない、など)
というわけで、私のような材料屋は「耐熱性」と言われると、こういった項目のどれで評価すればいいか? というのを考えて設計開発するので、要求項目がある場合は具体的に言って欲しいなぁ……というのをここ最近の出来事で思ったのでした。
もちろん、製品の組み立て屋の方だと材料を触った経験がない方も多く、そういう方はこういう部分までイメージできないのは仕方ないのですが。
そんなときは遠慮せず聞いてもらいたいですね。