第16回: ゴムの混練りとは?

ゴムの混練りとは?

私たちの身近にあるゴム製品というのはポリマーやカーボン、シリカのような補強材、オイル・可塑剤、老化防止剤、などなど、様々な配合材の組み合わせで出来ています。
これら複数の配合材を混ぜ合わせて一体化し、ゴムマスターバッチにする工程を混練りと言います。


どうやって混練りする?

ゴムの混練りには専用の「ミキサー」を使用するのが一般的です。

工業的に見ると、ゴム練りを行う工場でのA練り(加硫促進剤や加硫剤以外の材料を練ったもの)は「バンバリーミキサー」と呼ばれる密閉式の混練り機で練られることが多いです。

日本ロール製造株式会社のHPより

日本ロール製造株式会社(ゴム・プラスチック加工機械)
https://kikai.nippon-roll.co.jp/products/plastic/intmixer

バンバリーというのは発明者の人名です。
ホッパーと呼ばれる投入口から材料を入れ、チャンバーと呼ばれる槽内で羽根のついた2本のローターを回して混練りします。

上記では日本ロール製造のミキサーを例として挙げましたが、私が勤めていたところでは神戸製鋼所製のバンバリーを使用していました。

このバンバリーミキサーにも接線式、噛合い式、半噛合い式というようにチャンバー内のどの部分でせん断をかけて練るのかというので種類があり、さらにローターの羽根の数でも混練り性能が変わってきます。

  • 接線式  : ローターとチャンバーの壁面の間でせん断をかけて練る
  • 噛合い式 : 2本のローターの間でせん断をかけて練る
  • 半噛合い式: 上記2種の合わせ技でせん断をかけて練る

ミキサーのサイズも様々あり、工場では1回でゴムを練れる量(=1回で生産できるゴム材料の量)が数十kg~数百kg程度になります。※この「1回で生産できるゴム材料の量」を「1バッチ」とよく言ったりします。
1バッチが100kg~200kg程度のバンバリーになると、建屋の2階から材料をミキサーに投入して、1階で練り上げたものを排出するというような規模の大きさになります。

ちなみに、私が研究開発のラボクラスで使っていた大きさだと、1バッチが50g程度のものから1.5kg程度のものでした。
数百グラム程度のミキサーは「プラストミル」と呼ばれたりします。
工場にある巨大なミキサーを見ていると、プラストミルはもはやオモチャレベルに見える大きさです。


混練り中の確認は?

バンバリーミキサーは密閉型で、投入した各種材料がチャンバー内でどうなっているか見ることできません。
そのため、ミキサーを操作する人は「電力チャート」と呼ばれるチャートを見て、中の材料がどんな状態になっているかを予想しながらミキサーを操作します。
この電力チャートには主にチャンバー内の温度、ローターの回転数、ローターのかかっている負荷(トルク)がリアルタイムで記載されていきます。
ミキサーを操作するときはこの電力チャートが読めるようにならないといけませんが、これは実際に自分でやって経験しないと難しいかもしれません。


ミキサーが登場する前はどうやって混練りしてた?

ミキサーが世に登場するまで、ゴムの混練りは「ロール」と呼ばれる2本の金属の円柱が横に並んだ機器で混練りを行っていました。
今ではロールは主に練りあがったゴム材料を圧延加工してシートにするために使われるのが主ですが、昔はこれで練っていました。

正直、1バッチ練るのに数十分~1時間くらいはかかりますし、非常に効率が悪いです(バンバリーだと1バッチで約3分~5分程度)
さらにロールは扱うのにテクニックが必要です。
回転体ですし、容易に手を入れてしまうこともできるので、誤って手が巻き込まれると重傷のケガを負う危険性も高い機器です。
そう考えるとミキサーが登場したときはさぞ革新的だったでしょう。


バンバリー以外のミキサーは?

主にB練り(A練りに加硫剤や加硫促進剤を練り込んだもの)を生産する際に使われる「加圧ニーダー」というミキサーもあります。
バンバリーよりも冷却効率が高く、バンバリーと違い、練っている最中の槽内のコンパウンドを直接見ることもできます。

株式会社日東のHPより

株式会社日東(製品情報)
http://www.kk-nitto.co.jp/products/kneader.html

正直、B練りだけならロールだけでもできます。
しかしバッチ量が多いとニーダーを使ってざっくりと加硫剤や加硫促進剤を練り込んだ後ロールにかけた方が分散性が良くなったり、ロール効率自体が上がったりするので工場では重宝されるミキサーです。


ゴムは同じ配合材を使っても、練り方次第で物性が変わるということはよく起こります。
ゴム材料に関わる場合、工場の現場生産者だけでなく設計開発者もゴムの混練りについてはある程度の習得は必須です。

液体窒素(えきちー) のアバター

作者: 液体窒素(えきちー)

某化学系企業に勤める高分子系の材料開発屋。 大学での専攻は有機合成化学。卒業後、2012年から約7年、ゴム材料の品証、開発、製造などに従事。その後、粘着剤に関わり、現在は接着剤の開発を行っています。 副業はアズールレーンの指揮官。 趣味は文房具、宝石、シルバーアクセサリーなど

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