ゴムの練りパターンとは?
第16回では混練りについて、第17回ではミキサーへの原材料の充填率について書きましたが、今回は「どういう練り手順でゴムコンパウンドを製造するのか?」という内容になります。
これについては、言ってしまえば「こういう手順で原材料を入れてこの時間で練る」ということは決まっていません。
例えば、野菜炒めを作ろうと思ったとき、油を引いたフライパンに各種野菜をまとめて入れて炒めても、あるいは火の通りにくい野菜から順番に投入していって炒めても「野菜炒め」は作ることができます。
ただし、その野菜炒めの出来上がり具合(質)は変わってくると思われます。
ゴム材料も同じようなもので、どういう順番で原材料をミキサーに投入してどれくらいの時間練ろうとも、とりあえず大体は「ゴムコンパウンド」が作れます。
しかし、原材料の分散具合や加硫後の物性などの品質は大きく変わってきます。
なのでゴムの混練りを行うときはどのような材料がどれくらい使われるかを確認して、適切な練り手順を設定する必要があります。
これは正直一朝一夕でどうにかなるものではないので、経験が重要になってきます。
私が当時の師匠(会社のベテラン先輩)から言われたのは「ミキサー内のコンパウンドのムーニー粘度を想像しながら練れ」というようなことでした。
基本的な練りパターンって?
基本的かどうかはわかりませんが、練りパターンについて以下に書いていきます。
<一括投入>
名前の通り、最初からポリマー、カーボン、フィラー、オイル、各種薬品類を全部ミキサーに入れてからラム(加圧蓋)を下して練る方法です。
ゴムの混練りでは一番基本となる練り方になります。
メリットとしては何も考えなくていいので楽、生産性が高い、というところでしょうか。
簡単な配合やオーソドックスな配合ならとりあえずこの練り方で対応できると思います。
逆に何かの配合材料が極端に多い/少ないといったような癖の強いものだとうまくいなくなる可能性が高くなります。
<ポリマーを最後に入れる一括投入>
アップサイド、なんて呼んだりもします。
基本的には一括投入と同じなのですが、この練り方ではカーボンやフィラー、オイル、薬品類を入れた後、最後にポリマーを入れてからラムを下して練る方法です。
この練り方では最後にポリマーを入れてラムを下してローターを回すことで、弾性体であるポリマーの硬さを利用して最初から一気に高いシェアをかけて練りを行います。
私は開発で小型バンバリーを使って低粘度EP配合の材料を練るときにこのやり方でやっていました。
低粘度の配合というのは柔らかいが故にローターでせん断をかけても発熱がしにくいため材料の溶融分散がしずらくなってしまいます。まして小型バンバリーならなおさら。
なので、ミキサーのチャンバー内の温度を通常より高くしてこの練り方をチョイスすることで、少しでも高いせん断力とそれに伴う発熱を確保しようとしたわけです。
ただし、ポリマーの硬さに頼るので、あまりにも低ムーニーなポリマーを使うときや、ポリマーの形状がクラムやフライアブルだとこの練り方を選択する必要性はなくなります。
※ポリマーの形状について
- タイトベール: 最も一般的な形状で、25kgとか35kgの一塊になっているタイプ。
- クラム : ポリマーが生残りしにくくなるようにポップコーン状になっているタイプ。
- フライアブル: クラム状のポリマーを押し固めてベール状にしたタイプ。タイトベールよりもミキサーのローターで砕きやすい。
<ポリマー素練り>
最初にポリマーだけを入れてからラムを下してしばらく練った後、次工程で残りの材料を入れて練る方法です。
この練り方は分子量の高いタイトベールポリマーが使われているときや、天然ゴムを使うとき、ポリマーの生残りや分散に気を遣うときによく行われる練り方です。
特に天然ゴム配合では、天然ゴム自身が非常に高い分子量故にグリーン強度(未加硫状態でのポリマーやゴムコンパウンドの強度)も非常に高いため、初めにポリマーだけを素練りして分子量を下げないと、カーボンのような補強材を入れたときにミキサーにかかる負荷が大きくなりすぎて機器破損に繋がってしまう場合があります。
天然ゴムだと“しゃっ解剤”という化学的に分子を切断する薬品も一緒に入れて素練りするパターンもあります。
この練りパターンには細かい派生がいくつかあります。
- 亜鉛華素練り
- カーボン/フィラー素練り
この辺は分散性の悪い粉物をポリマーと一緒に最初の段階に入れて練り工程数を稼ぐことで、粉物の分散性アップと、粉物によるポリマーの素練り促進を狙っています。
特に亜鉛華(酸化亜鉛)素練りは練り屋さんではよくやられているかもしれません。
<カーボン/フィラー分割投入練り>
これはカーボンやフィラーが大量に入る配合でよくやられる練り方です。
カーボンやシリカなどの補強材を一気に大量に入れると、チャンバー内のコンパウンドの粘度が急激に上昇するため、せん断時の発熱が制御できなくなってしまいます。
カーボンであればソフトカーボンであっても100phr以上入る配合であれば50/50、または40/60くらいの2工程に分けて入れるのが無難ですし、あまり発熱が大きくなりそうなら3工程くらいに分けてもいいでしょう。
カーボンを入れない白色配合の場合だと、シリカなどは嵩比重が大きいために1回で全部入れるとラムを下した瞬間にフィラーが吹き上がってロスしてしまうなんてこともよくあります。
練り機がバンバリーでなくニーダーだったりするとすごく小分けにして5分割、6分割で投入なんてこともおこなう場合があります。
もちろん生産性はかなり悪くなります。
<オイル分割投入練り>
カーボンやフィラーを分割投入して練る方法があるなら、当然オイルだって分割投入して練るやり方もあります。
粉物とは逆にオイルを一気に大量投入すると、チャンバー内のコンパウンドの粘度が急激に低下するので、分散不良に繋がる…というのもありますが、単純に「オイル」ですのでミキサーのチャンバー内がべちゃべちゃになり、つるつると滑ってローターでシェアがかけられなくなってしまいます。
A硬度で30とか40のゴムコンパウンドはオイルが100phr以上入ることはざらにあるので、1バッチで数百kg以上練るならオイル分割投入練りは必須になるかもしれません。
先に書いたように小型の練り機ならアップサイド練りでも問題ないと思われます。
大まかなところだと以上のような感じでしょうか。
あとはこれらの複合技でけっこう広く対応できると思います。
(ポリマー素練り+カーボン分割投入とか、フィラー素練り+フィラー分割投入など)
ただ練りパターンに正解はないので、練ろうとするコンパウンドの配合や最終的にゴム製品になった際の用途に応じて上手く使い分けてください。