コロナ禍の化学・材料業界ってどんな感じだった?


2020年、2021年は世界的に新型コロナウイルスによって大混乱を極めた年でした。
特に観光、運送、飲食などの接客がメインとなる業界は連日ニュースなどでその厳しさが多く伝えられました。

ではB to Bが主となる化学・素材はどんな感じだったでしょうか。
私個人が観測した範囲の雰囲気を書いてみます。


2020年

一番痛手だったのはトヨタ、日産、マツダなどの自動車メーカーの国内外の工場停止や減産、ライン稼働率の大幅な低下でしょうか。

私のような材料屋や素材屋はモノづくりにおいては上流工程におり、様々な業界に材料を提供しているわけですが、最終的に自動車に使用されるということも多いです。
自動車は日本の基幹産業なので、ここが落ちるとその影響はかなり大きいです。
特にTier1メーカー(自動車メーカーに部品を出すメーカー)は一蓮托生になりますので、もろに影響を受けますね。

自動車メーカーが工場停止などで減産する

自動車メーカーに部品を出すメーカーも減産せざるを得ない

部品作りに必要な素材や材料も量が出なくなる

非常にわかりやすい図式です。
これは自動車に限らず、例えばスマホや家電など、一般消費者の手に渡る完成品なら全て当てはまります。
今回のコロナ禍では特に自動車関連の減産が国内外で顕著になったため、特に化学・材料業界にも影響が大きく出たということでした。

しかし、周囲の人の話を聞くと「今回も大変だけど、リーマンショックのときの方がもっとヤバかった」というのをよく聞きました。
(リーマンショックのとき、私は学生だったのであまり実感はなし)

それに、先に挙げた飲食業界などの方がコロナでのダメージは遥かに大きく、それに比べたら化学・材料業界はだいぶマシだったと思います。


2021年(前半)

2021年になっても変わらずにコロナの影響はありましたが、化学・材料業界には早速に復活の兆しが見えてきました。
ちなみに私は当然会社の設備を使わないとモノの開発なんてできないので、世間一般で言われる「テレワーク」「在宅勤務」とはほぼ無縁の生活で、毎日出社していました。
出張に関しても、Webミーティングで済むものはそれでやっていましたが、行くときは行ってました(相手の会社が受け入れOKなら)。
でも東京方面は拒否しましたね、さすがに。

この辺りの出張関係は各会社で温度差があり、大手の化学メーカー、材料メーカーは基本的に出張者受入れNGとしているところが多く、中小企業は会社によりけり、という感じでした。
ただし、やはりモノは作って出さないといけないので、会社間の交流は少なくなっても、工場勤務者や研究所勤務者は出社していたというのが事実です。(週あたりの出勤回数が減った人は多いでしょうけど)
こういった化学メーカーでテレワークというのは本社の事務関係や営業関係ですね。


2021年(後半)

緊急事態宣言も解除され、ワクチンも打ちたい人は大体打って、という感じで世間もだいぶ平和になってきました。
化学メーカーでは多くが決算で売上が前年度よりアップという話も多いです。
(前年が悪すぎたので当然と言えば当然ですが)

しかし、化学・材料業界としてはある意味コロナよりつらい状況が発生しています。

  • 原油価格の高騰
  • 2020年末~2021年3月頃に発生したアメリカの大寒波
  • 中国の金属シリコンの製造の大幅な低下

原油価格の高騰

近年では石油に由来しない新素材の話も多く見かけるようになってきましたが、化学業界はまだまだ石油由来製品が圧倒的に数を占めています。

なので、原油価格の高騰は多くの化学素材の値上げに繋がってきます。

三井化学 EPT全銘柄を来月から値上げ、安定供給図る

三井化学は9日、自動車部品や電線ケーブル、その他の工業部品などに使われるEPT(エチレン・プロピレン・ターポリマー)「三井EPT」全銘柄を12月1日納入分から値上げすると発表した。改定幅は、「40円/kg以上」。

日刊ケミカルニュースより

三井化学 熱可塑性エラストマー値上げ、来月から実施

三井化学は9日、オレフィン系熱可塑性エラストマー「ミラストマ―」全銘柄を12月1日出荷分から値上げすると発表した。改訂幅は、国内が「40円/kg以上」、海外が「400米ドル/t以上」。

日刊ケミカルニュースより

国内のEPDM製造メーカー最大手の三井化学がまたEPDM製品やミラストマーの値上げを発表しました。
また、と書いたのはEPDM製品は昨年12月にも20円/kg以上の値上げをおこなっているからです。

もちろん、原油価格の高騰だけの影響ではありませんが、この影響は大きいです。


アメリカの大寒波の影響

2021年の始めに発生したアメリカの大寒波の影響がこの記事を書いている現在でも尾を引いています。

米国の広範囲に異例の寒波襲来、テキサスで停電も

【2月16日 AFP】米国の広範囲が15日、異例の寒波に見舞われた。北極圏から寒気が入り込んで気温が急激に低下し、空の便数百便が欠航したり、路面が凍結したり各地で混乱が生じた。南部テキサス州では、停電が発生した。

AFP BB Newsより

普段、積雪なんて発生しないアメリカの南部も寒波によって氷漬けになり、ここで製造されている多くの製品が製造できなくなる事態になっています。
ですので、ここに製造拠点を置くメーカーは「フォースマジュール宣言(不可抗力宣言)」を出して製品の出荷を止めています。

さらに、アメリカではコロナによって大量の死者や重篤患者が発生している状況も相まって物流関係も瀕死状態になっています。

これらの結果、

  • 普段アメリカから入手できていた材料が調達できない
  • 調達できるとしても時間がかかる

という状況になっています。

実際、私もアメリカで生産されているある材料を代理店経由で購入しようとしたところ、代理店から「現状だと空輸でもリードタイムが約半年かかります」と言われ断念しました…


中国の金属シリコンの製造の大幅な低下

過去の記事でも少し書いていますが、中国政府の意向(中国国内の電力不足が原因)により電力を大量に使っている中国国内の工場が突如操業停止、または大幅な稼働率の低下を求められています。


金属シリコン、減産・停止相次ぐ、中国の電力不足懸念材料(フォーカス)

中国における電力不足が、化学メーカーの材料調達にとって懸念材料となっている。太陽光発電パネル、シリコーン樹脂などの原料となる金属シリコンは同国における内需が増加基調にある最中、主要産地で電力供給が制限され、大幅減産や稼働停止を余儀なくされている模様。

化学工業日報より

金属シリコンの製造は中国が約6割の世界シェアを持っていると言われますが、その影響がもろに出ています。

金属シリコンがなければシリコーン製品が作れないわけで、ある代理店の人と話したら「今は全然モノが入ってこない。一時期は通常の10倍くらいの価格になったこともあった」と言っていました。


中国産金属シリコン出荷量、電力供給再開し通常の5割に回復。太陽光パネル向け需要急増で価格は高止まり

中国の電力不足を受けて供給不安が指摘されていた中国産金属シリコンは、電力供給再開により地場メーカーの出荷量も通常の4~5割まで回復している。

Yahooニュースより

多少は回復しているようですが、まだまだ厳しそうな感じです。

これらの影響がどこまで続くかわかりませんが、業界的にはなかなか厳しいです。
企業によってはコロナよりダメージがあるかもしれませんね…

後半はコロナがあまり関係なくなった感はありますが、現状の化学・材料業界はこんな感じだと思います。

長距離出張はwebに置き換わって欲しいけど、その他は元に戻ってほしいですね…

液体窒素(えきちー) のアバター

作者: 液体窒素(えきちー)

某化学系企業に勤める高分子系の材料開発屋。 大学での専攻は有機合成化学。卒業後、2012年から約7年、ゴム材料の品証、開発、製造などに従事。その後、粘着剤に関わり、現在は接着剤の開発を行っています。 副業はアズールレーンの指揮官。 趣味は文房具、宝石、シルバーアクセサリーなど

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