私はこのブログではゴムやエラストマー関連の内容を書いていることが多いのですが、現職では主に接着剤の設計開発をおこなっています。
最近、某難接着系エンプラの接着案件が来たのですが、せっかくなのでこれを機に、前々から気になっていたセメダイン社製の難接着材料用接着剤PPXの評価をおこなってみました。
難接着材料用接着剤PPX
https://www.cemedine.co.jp/home/adhesive/polyolefin/index.html

セメダイン社のホームページより
説明によると、PPXは一般的に難接着材料と言われる以下の5種類に対して接着させることが可能とのこと。
- ポリエチレン(PE)
- ポリプロピレン(PP)
- ポリアセタール(POM)
- シリコーンゴム
- フッ素樹脂
確かにこれらの材料は接着性が出ません。
それがくっつくと言われたら、接着剤屋としては試さずにはいられない!
ちなみにこのPPXはホームセンターなどで売られており、お値段は約1200円。
同社製品の汎用的な瞬間接着剤スーパーXなどと比べると倍以上の価格になっています。
しかも内容量もスーパーXは20mlに対して、PPXはプライマー3ml+接着剤3mlの計6mlと少ないです。
一般消費者からすると結構割高に見えますね。

ホームセンターで買ってきました。
評価方法は?
今回は接着力を見たいので、JIS K6850で規定される「接着剤−剛性被着材の引張せん断接着強さ試験方法」に準拠した引張せん断強度で評価します。
接着剤ではよく用いられる一般的な評価項目になります。
これはどういう評価方法かというと、同一形状の2枚の板状の基材を12.5mmの長さ分だけ接着剤を塗って重ね合わせて貼り付け、この板を引っ張ることで接着力を見ます。

引張試験機にはテンシロンを使用し、引張速度は10mm/minでおこないました。
評価する基材は?
セメダイン社は先に記載した5種類の基材でPPXの評価をおこなっています。

改めて見るとすごいですね。
いずれの難接着基材も材料破壊しているとのこと。
材料破壊とは、上に挙げた引張せん断試験の概略図で言うと、試験片を引っ張ったときに接着した部分が剥がれるのではなく、基材部分が割れてしまうということです。
つまりそれだけ強固に接着しているという証で、接着剤としては最高の結果になります。
さて、あまりセメダイン社と同じことをやっても面白くない、ということで、今回は手持ちであった以下の4種類の基材でPPXの評価をしてみます。
- ポリプロピレン(PP)
- 6ナイロン
- シクロオレフィンポリマー(COP)
- ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)
聞き慣れないものもあるかもしれませんが、いずれも難接着系のエンプラになります。
実は他にも、ポリフェニレンスルファイド(PPS)やポリカーボネート(PC)などの難接着系基材もあったのですが、この2種類に関しては自力で材料破壊する接着剤を開発したので除きました。
・6ナイロン
耐衝撃性、柔軟性、耐薬品性、耐熱性が良好。
滑り性も良好で手触りが地味にいい。
・COP
PMMA(アクリル樹脂)並みの透明性があり、よく光学用途に用いられる。
シクロオレフィンなのでPPに近い性質があり難接着。
・PEEK
エンプラの上位種であるスーパーエンプラ。
あらゆる耐性が高く、強度もあるし難燃性もある。
弱点はコストの高さくらい?

作成した試験片。
右から順に、PP、6ナイロン、COP、PEEK
基本的にはN=3で評価ですが、PEEKのみN=2です。
PPXはプライマーを塗ってから接着剤をつけるタイプです。
プライマーというのは下塗り剤で、これをあらかじめ基材に塗ることによって、基材の表面を接着しやすいように改質したりします。
2枚の板状基材のそれぞれの接着面、長12.5mm x 幅25mmの面積にプライマーを塗った後、1分以内に接着剤を2~3滴つけて貼り合わせました。
<評価結果>
・PP

見ずらいかもしれませんが、N=3全て材料破壊しました。
・6ナイロン

こちらは全て界面剥離です。
※界面剥離: 基材から接着剤が剥がれた状態
・COP

全て材料破壊しました。
・PEEK

全て界面剥離です。
せん断力の最大応力値は以下になります。

PPとCOPが材料破壊しているあたり、やはりPPXは炭化水素系の材料に強そうですね。
COPの応力が低いのは材料の結晶性が高く脆いからでしょう。
6ナイロンも接着はしていますが、元々材料の柔軟性が高いので材料破壊までは難しいのかもしれません。
PEEKはスーパーエンプラだけあって材料そのものの強度が非常に高いのでやはり材料破壊までは難しそうですね。
しかしいずれの基材も通常のよくある接着剤でせん断強度を見ると、1N/mm2にも届かずペリッと剥がれてしまうのが基本です。
なのでそれを考えると、界面剥離しているとはいえ6ナイロンやPEEKで1.5~2N/mm2程度出ているのはなかなかすごいと思います。
増して、PPやPE、COPなんかは材料破壊ですからね…
やはりポイントはプライマーにあるのでしょう。
n-ヘプタンが99%、残り1%が有機アミン化合物とありますが、これがミソっぽいですね。
一体何なんだろう…
結論
約1200円という値段で高いと感じるかもしれませんが、このレベルの性能のものを誰でも購入できると考えたら安いもんだと思いました。
初めまして
趣味の制作でナイロンに充填剤を入れる必要があり。
ナイロンに対して如何に接着力を持たせるかという事を調べておりました。
ナイロンの接着には火炎処理等も有効とネットの情報ではありますが有りプライマの使用も含めて情報収集中です。
現在は2液混合エポキシかガチどめ工業用接着剤(恐らくは独国HOSCH製のINDUSTRY SUPER GLUE)
というナイロンに対しても使えるシアノアクリレート系接着剤の使用を検討中です。
ナイロンの接着に関しては実験資料、映像等ネットに殆ど無く苦闘しており
大変貴重な資料として当ページを拝見いたしました。
勉強になりました事御礼を申し上げたくコメントを致しました。
ページの製作、実験ありがとうございました。
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コメントありがとうございます。ご参考になったのなら幸いです。
一般的にナイロンという素材は難接着ですので難しいと思いますががんばってください。
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