過酷な環境下で使用! 製鉄用ゴムロールとは?

ゴムロールとは?

ゴムロールとは文字通り「ゴムで出来たロール」です。

鉄の芯材にゴムを巻き付けて加硫し、その後、場合によってはロールの表面にコーティングなども行い作られます。

鉄芯へのゴムの巻き方は圧延したゴムを人力で巻き付ける積層法、押し出し機でリボン状に出したゴムを巻いていく(押出法)などの方法があります。
また、加硫については「釜加硫」と呼ばれる方法で加硫されるのが一般的です。
これはオーブンのようなものを想像してもらえるとわかりやすいかもしれませんが、加硫釜と呼ばれる機器に入れて間接あるいは直接のスチーム(高温蒸気)で8時間以上かけて加硫します。

用途は様々で、今回紹介する製鉄用や、製紙工場などで使用されるもの、印刷機などに組み込まれている紙の送り出し用、数マイクロの厚さのフィルム材の送り出し、テンション掛け用などがあります。


主要なゴムロールのメーカーは?

国内には多くのゴムロールメーカーがありますが、そのほとんどが従業員数で言えば数名~数百名規模の会社になります。
いくつか有名どころを挙げるなら、

  • 金陽社
  • 加貫ローラ製作所
  • 明和ゴム工業
  • 宮川ローラー
  • 水内ゴム
  • 尾高ゴム工業

あたりでしょうか。
どの会社もそれぞれ分野の違いで強みがありますが、中でも金陽社は総合ゴムロールメーカーであり、ゴムロールと言えばここ、という感じになっていると思います。


製鉄用ゴムロールとは?

以前このブログでデンカが出す「Evolmer(エボルマー)」が鉄鋼関連で使われるゴムロール用途に採用された、という記事について書きました。
また私も以前、この分野のゴムロール材料の開発をやっていたということもあり、製鉄用ゴムロールについて書いていきます。

製鉄用ゴムロールとは、製鉄所で鋼板材(鉄板)の送り出しに使用されるゴムロールになります。

鋼板材の製造工程を考えると、初期の工程では鋼板材の温度の関係で主に金属ロールが使用されます。
その後中盤~終盤にかけて、鋼板材の温度がある程度下がった状態になると脱脂工程、表面処理工程などを経ます。
製鉄用ゴムロールはこのあたりの工程で使用されます。

鋼板材送り出しの雑なイメージ図

製鉄用ゴムロールに必要な性能は?

製鉄用ゴムロールに必要とされる性能はいくつかありますが、1つは耐摩耗性になると思います。
しかし、ただの耐摩耗性ではありません。

ここで、尾高ゴム工業のホームページを見てみましょう。
尾高ゴム工業は和歌山にある企業です。
会社の規模としては小さい部類ですが、製鉄用ゴムロール業界では最大手と言われているゴムロール屋さんです。
(昨年11月にホームぺージをリニューアルしたそうです)

尾高ゴム工業(株)
https://www.otaka-rubber.co.jp/

該社のホームページの製品概要の項目に以下の製品の記載があります。

「耐エッジ摩耗」というものです。

これはゴムの一般的な摩耗ではあまり聞かないと思いますが、耐エッジ摩耗とは鋼板材のエッジ部分によって起こる摩耗のことを指しています。

エッジ摩耗の雑なイメージ図

基本的に送り出される鋼板材というのはかなりの重量があり、またそれがゴムロールの同じ箇所を24時間延々と通過していきます。
また鋼板材自体も綺麗に加工されている状態とは言えないため、端の部分は荒れてもいます。
このため、上の図のゴムロールの赤丸の部分がどんどん削れていってしまいます。
これが該社の言うエッジ摩耗です。

ゴムロールがエッジ摩耗によってあまりにも削れた場合、そのゴムロールは寿命となり交換しなければなりません。
この耐エッジ摩耗性が悪いと交換頻度が多くなり、結果的には製鉄所のラインを何回も止め生産性が大きく低下しています。

このため製鉄用ゴムロールに使用されるゴム材料の硬度はA80、A90と高いものになります。
さらに尾高ゴム工業の製品では上の画像にもあるハードクラッチという樹脂片をゴム材料に添加することで、エッジ摩耗を物理的に抑えたものもあります。

余談ですが、尾高ゴム工業のリニューアル前のホームページには一例として使用されているゴム材料の加硫物性(TBやEBなど)も載っていました。
リニューアルでそれがなくなってしまったのは少し残念です。


さて、もう一つ求められる性能として重要なのが耐薬品性(耐酸性)です。
鋼板材の脱脂工程や表面処理工程においては、鉄鋼版がクロム酸やフッ酸といった強力な酸の入った槽内を通過するわけですが、実はゴムロームもこの酸の槽内にドブ漬けになっている箇所もあるとのことで、この酸劣化に対しても強いものが材料に要求されます。

さらに、製鉄所は少しでも生産性を上げるために鋼板材の送り出し速度を早くする傾向にあるため酸の槽に浸かっている時間が短くなる⇒その分 酸の温度を上げて対応、ということをするためゴム材料には高温の耐酸性が求められるという過酷な状況になります。
正直、私としては耐摩耗性よりもこの耐酸性の方が設計上で悩みました。
耐薬品性というのは配合よりもポリマー種で決まってしまうのがほとんどですからね…
温度は確か60℃とかそれくらいだった気がします。
この温度の強酸はなかなかえぐいですよ。


いかがでしたでしょうか。

私は他分野のゴムロール材料については扱ったことはありませんが、おそらくこの製鉄用ゴムロールよりも過酷な環境下で使用されるゴムロールはないのではないかと思っています。

こう考えると、どの工程の部分かはわかりませんが、デンカのEvolmerが鉄鋼関連ゴムロール用途で採用になったというのはなかなかすごいことだというのがわかってもらえるのではないでしょうか。

興味があれば他のゴムロールメーカーのホームページを見てみると面白いかもしれません。

液体窒素(えきちー) のアバター

作者: 液体窒素(えきちー)

某化学系企業に勤める高分子系の材料開発屋。 大学での専攻は有機合成化学。卒業後、2012年から約7年、ゴム材料の品証、開発、製造などに従事。その後、粘着剤に関わり、現在は接着剤の開発を行っています。 副業はアズールレーンの指揮官。 趣味は文房具、宝石、シルバーアクセサリーなど

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