クロノトウキョウ グランド:森

日本ブランドの腕時計と言えば、多くの人はセイコー、シチズン、Gショック(カシオ)を挙げるだろう。
少し詳しい人ならオリエントも挙げるかもしれない。
では「クロノトウキョウ」はどうだろうか?

クロノトウキョウとは、東京時計精密(株)という日本企業が展開する時計ブランドの一つである。
代表取締役社長は浅岡肇氏。
浅岡氏は現在世界で36名、日本で3名いる独立時計師アカデミーの会員の1人。
独立時計師とはメーカーやサプライヤーに属さず、個人で複雑な機械式時計を作り上げることができる超絶技術力を持った時計職人である。
そんな浅岡氏が自身の考え方やデザイン、品質基準を反映させて量産製造した腕時計のブランド、それがクロノトウキョウである。

そしてこの冬、そのクロノトウキョウの時計を購入した。
それが「グランド:森」である。

ケースサイズは至極の37mm、厚さは7mmで着け心地は良好

クロノトウキョウの中にはいくつかコレクションがある。
その中で「グランド」は時計職人である浅岡肇氏が他の職人とコラボレーションするような形で作られたコレクションになる。
そしてこの「グランド:森」に関して言うなら、コラボした相手は京都の女性漆職人、島本恵未女史となる。

この時計の最大の特徴は、文字盤を透き漆で仕上げていることにある。
生漆を精製して作る透き漆を金メッキを施した金属板に塗り、乾燥させて磨き、また塗って乾燥させて磨き……を繰り返して作られている。
文章にすれば簡単に終わってしまうが、研磨には3種類の砥石、磨き粉、最後にはダイヤモンド紛を使い、全ての工程を手で仕上げている。
そのため、この文字盤を作るだけで2ヶ月以上かかるようで、まさに職人技である。
研磨なんてポリッシャーなどの機械を使えばいいのでは? と思いたくなるが、この文字盤はボンベタイプ、つまり文字盤の外周が落ち窪み、ドーム状の文字盤になっているため機械で仕上げることができない。
クロノトウキョウの中でも製造難易度が最も高いグランドは伊達ではないのである。

この写真では何も伝わらないが、ボンベダイヤルの外周に合わせて針の先端も手で曲げられている
ケースバックに「浅岡肇」の落款が入るのはグランドシリーズならでは。またこの落款がどの個体でもちゃんと正位置になるようにケースバックが閉まるのも地味にすごい

なお、クロノトウキョウの時計は全てWeb上での販売となる。
さらに、ほぼ全てのアイテムが個数制限ないし時間制限で販売される。
200本限定モデルが1分30秒で売り切れたり、ものによっては文字通り秒殺で売り切れることもあることから、その人気はわかるだろう。
このグランド:森に関していえば2022年5月27日午後11:00から12分間のみ公式HP上で販売された時計となる。
この時間内に決済できれば個数は関係なく購入できたものになるが、あまりに販売時間が短すぎる。
そしてそんな時計なので、中古市場でもあまり見ることはない。
特にこの「グランド」シリーズは今では国内での中古出品はほとんど見られず、どうしても購入したければ海外で出品されているものを買うしかない、という感じである。
浅岡肇という凄腕の日本人独立時計師が手掛けている国産の腕時計にも関わらず世間的な認知度が低いのは、そもそも時計店にクロノトウキョウがあまり並ばず、見る機会も少ないことが原因だろう。

今回私はたまたま1本だけ中古時計の販売店に出ていたものを運よく見つけて購入できたが、やはり若干のプレ値が付いていた。
しかしそれでも、むしろよく売れずに残っていたものである。
元の価格がそこまで高くはないので金銭的ダメージは低いが、それでも買えるなら、当然ながら発売時の正規購入がいいだろう。

時計としての満足度はかなり高いが、あえて言うならストラップが残念、という感じか。
コバの部分が荒く、色も浅岡氏のこだわりならもっと文字盤の色に近づけられたように思う。
ただこれはなるべく低価格で提供するために、コストをかける部分とかけない部分のメリハリをつけていると考えれば仕方のないこと。
浅岡氏がそこにもこだわることがコストアップに繋がるなら諦めるしかなかっただろう。
ストラップに関しては来年、どこかのタイミングでジャン・ルソーあたりでオーダーしてこようと思っている。

ベルトも個体差があるのだろうけど、こちらはコバの一部がやや荒れている。また、色は緑というよりは青で文字盤とのマッチ感が薄い

クロノトウキョウは毎年何かしら新しいモデルを出しているので、興味があれば是非狙ってみて欲しい。

液体窒素(えきちー) のアバター

作者: 液体窒素(えきちー)

某化学系企業に勤める高分子系の材料開発屋。 大学での専攻は有機合成化学。卒業後、2012年から約7年、ゴム材料の品証、開発、製造などに従事。その後、粘着剤に関わり、現在は接着剤の開発を行っています。 副業はアズールレーンの指揮官。 趣味は文房具、宝石、シルバーアクセサリーなど

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