11月に縁があり、新進気鋭の腕時計ブランド「ルノー・ティシエ」が出したコレクション第一弾「マンデー」の紹介イベントに参加した。
ルノー・ティシエはドミニク・ルノー氏とジュリアン・ティシエ氏の2人によって2023年に創業した腕時計ブランド。
ドミニク・ルノー氏はかつてオーデマ・ピゲ(AP)に所属し、1986年にムーブメント製造会社「ルノーエ パピ」をジュリオ・パピ氏と共同創業している。
これまで数々のムーブメントを開発してきたムーブメントの研究者とも言うべき方である。
一方、ジュリアン・ティシエ氏は31歳の若手時計技師。ルノー氏の発明を実際に腕時計に落とし込む作業を担当するのがティシエ氏である。
あのルノー氏が友人として、そして新規時計ブランドのビジネスパートナーとして認めるのだから、現在の技術力と将来性は申し分なしの技師と言える。
今回のイベントは国内では3回目となり、ティシエ氏は来日し、ルノー氏はフランスからWebで繋いでの登場であった。

ルノー・ティシエでは、ルノー氏が新たに機械式腕時計で開発した7つの発明を、1コレクションに1つ搭載し発表していくという。
7つの発明があるため、これを1週間(7日間)に例え、今回発表されたその第1弾が月曜日(マンデー)である。
つまり、今後チューズデー、ウェンズデー……と続き、サンデーまで発表されるのであろう。
発表スパンとしてはおおよそ1年半毎で計画しているとのこと。
さて、今回発表された「マンデー」はどのような発明が組み込まれているのか?
それは「マイクロローターの巻き上げ効率」に着目した発明である。
ざっくり平たく言えば、「マイクロローターだけど40分着用すればぜんまいがフル巻き上げされる」というような機構がムーブメントに搭載されているのである。
一般的にマイクロローターはムーブメントの美観性を損ないにくいが、実用面では回転半径が小さい(慣性モーメントが小さい)ため、ぜんまいの巻き上げ効率はあまりよくない。
この問題を解消したのがマンデーのムーブメントに搭載されているマイクロローターになる。
簡単に言うと「ローターの錘が内と外で2つに分かれておりそれぞれが動きぜんまいを巻き上げる。さらにローターの中心部分にはスプリングパーツが組み込まれており、受けた衝撃をぜんまいの巻き上げ動力に変換する機構を備えている」という感じである。
このローターの内部分と中心部の受けた衝撃を巻き上げ動力に変換する機構をルノー・ティシエでは「ダンサー」と呼んでいる。
この機構が組み込まれたから、というわけではないだろうが、シースルーバックから見えるムーブメントは独特である。
先に挙げたマイクロローターもさることながら、香箱に施されるグラン・フー・エナメルも特徴的。
他では見られない新技術の機構がありながらも、クラシックさも感じられる不思議な雰囲気のムーブメントに感じた。
個人的にはかなり好み。これだけで白飯5杯はいけそうだ。
ムーブメント素材はパーツ毎に一番最適なものを使用しているとのことで、チタン、パラジウム、ゴールド、プラチナなど様々である。

このマンデーは18000振動である。
28800振動が標準とされる現代であえてこのロービートにしたのは何故か?
80時間以上のパワーリザーブを確保するため?
しかしこの巻き上げ効率の良さがあればパワーリザーブはあまり関係ないのでは?
……と思い、質問をした。
ルノー氏曰く、パワーリザーブを伸ばす意味もあるが、マンデーをクラシカルスタイルの時計として見たとき、18000振動は最も動きがいい(=テンプの動き、ステップ運針の動きが穏やか)から、とのこと。
このダンサーの機構があれば精度重視のハイビートモデルにもっていってもおかしくないと思ったのだが、そこは時計の雰囲気を重視したということであった。
ルノー氏は穏やかな雰囲気の人柄だが、それが時計にも出ているのだと感じた。
この考え方は非常に好感がもてる。
裏側を見なければこのマンデーは非常にクラシカルな時計だ。
グレイン仕上げの文字盤に二針、または9時位置にマイクロローターのフライホイールが見えるオープンワークの二針スモセコの2モデルが基本だが、文字盤や針の色などはカスタムもできるらしい。
ケースサイドにもグレイン仕上げの装飾が施されており、手が込んでいる。


現在、ルノー・ティシエは年産60本程度ということもあり、日本では実機を見る機会もほぼないため、このイベントに参加でき良い体験ができたと思う。