三井化学のHPにVNB-EPT・EBTのカタログが掲載されていました。
エチレンプロピレンターポリマー
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/service/product/mitsui-ept.htm
VNB-EPTに関してはこのブログでも何回か触れてきましたが、私自身は開発業務を行っていた際に触っておりました。
一体いつになったらカタログが出るのだろうか、と思っていましたが、いつの間にか出ていましたね。
今回はこちらのVNB-EPTについて書いていきます。
なお、EBTの方はほとんど触っていないので今回は詳細は割愛します。
EBTはプロピレンがブテンになって炭素鎖が1つ伸びる⇒分子鎖の絡み合い密度が下がる⇒ガラス転移点の低下⇒低温性良好 のシンプルな考え方です。


私が主に触っていたのはPX-006Mになります。
当時、高ムーニータイプと低ムーニータイプも開発中という話を聞きましたが、それがそれぞれPX-008MとPX-009Mになるようです。
基本的に三井化学のPX-〇〇というのは開発品番になるはずなのですが、そのまま正式品番になったようですね。
VNB-EPTの大きな特徴は、名称にもありますがENB(エチリデンノルボルネン)ではなくVNB(ビニリデンノルボルネン)を第三成分にしている点です。
ENBの異性体がVNBになりますが、架橋部位が三級アルケンから一級(末端)アルケンに変わっていることで、有機過酸化物(PO)による反応性が格段に上がっています。
代わりに硫黄の反応性は格段に悪くなっているため、カタログにも書いてあるようにPO専用架橋品になります。
(私も以前、同配合で硫黄とPOの架橋をそれぞれキュラストで確認したところ、POに比べて硫黄の方は曲線の立ち上がりが遅く、トルクも低くなりました)
また、特殊なメタロセン触媒によってVNB側でポリマー主鎖が伸びないようにしているようですが、反応性の良すぎるVNBは多く入れられないため、ジエン含量も1.5wt%とEPDM系にしては低めになっています。ただし、POで架橋する分には全く問題ない量です。

では物性面は普通のEPDMと何か違うのか? というと、以下のような感じです。
・耐熱性が良好
・耐屈曲性が良好
・耐摩耗性が良好
PO架橋している時点で耐熱性はそこそこ良好なわけですが、適切な老化防止剤を使うと170℃台での熱老化試験でもなかなかいい変化率を見せてくれます。
また、耐摩耗性、特に滑り摩耗性なんかはけっこう良かったですね。
それもこれもカタログにあるように、低分岐ポリマーでかつ均一に架橋されるところが理由のようです。
難点を挙げるならポリマーのムーニー粘度が高いため、これ単体でコンパウンドの配合を組むとその粘度も高くなってしまうところでしょうか。
私が触っていた当時はPX-006Mしかなかったため、粘度調整がカーボンとオイルでしかできませんでした。
こうなると配合の自由度は減ってしまうわけですが、現在ではPX-009Mのような低ムーニー品もあるので、これとアロイ(混ぜる)すると粘度調整もしやすそうですね。
(普通のEPDMとアロイすると架橋の均一性が失われ、架橋速度にも差が出るためNG)
気になるお値段ですが、私が聞いた当時でも一般的なEPDMの2倍弱はありましたね。
今だとそのときよりもさらに値上げされているでしょうから、4桁に近い3桁後半くらいでしょうか。
まぁ上手く使えばなかなかのコンパウンドができるいいポリマーなので仕方ないんですけどね。
興味ある方は是非三井化学のエラストマー事業部に連絡してみてください。
いつも分かり易い記事をありがとうございます。
実は来週こちらのpx006を使い、エスプレン配合代替を新規立ち上げ予定です
私自身は技術者では無く、精煉現場と配合を行なっている少し特殊な立場です。
硫黄加硫系で組んでみようかと思っていましたが、まだまだ勉強ですね
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コメントありがとうございます。
このVNB-EPDMを使うにあたっては硫黄配合はNGですね。また、他のENB系のEPDMとのブレンドもやめておいた方がいいです。
VNB-EPDMはかなり特殊なEPですので、既存の硫黄配合の代替で用いるのにはなかなか難しそうな印象です。
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